「ツールは入れたのに、使う人が増えない」という悩みを、AI導入の現場でよく聞きます。
そんな中、建設大手の清水建設で、生成AIの利用者が約1年半で7倍以上に増えたことが発表されました。
発表したのは、同社にAIアシスタントを提供する株式会社Lightblueです(2026年8月20日)。
注目したいのは、利用者8,800名という数字よりも、
社内で作られたAIアシスタントが8,000個を超えたという事実です。
利用者とほぼ同じ数だけ、AIが社内に存在する計算になります。
本記事では、この発表の中身と「作る人を増やす」広げ方のポイントを、中小企業の視点から解説します。
約1年半で7倍——数字で見る清水建設の生成AI活用
清水建設は2024年7月に中期DX戦略を策定し、生成AIの業務活用を始めました。
発表によると、利用ユーザー数は2025年4月時点の約1,200名から、約6か月で4,700名に増えました。
さらに約1年半で8,800名まで拡大しています。
単純計算で7倍以上、途中で失速せずに増え続けているのが特徴です。
背景には、建設業の深刻な人手不足があります。
2024年4月からは時間外労働の上限規制も建設業に適用され、
少ない人数と時間で同じ仕事を回す工夫が急務になっています。
そして社内で作成されたAIアシスタントは8,000個を超えました。
部門や現場ごとに、自分たちの業務に合わせたAIが作られている状態です。

「1個の万能AI」ではなく「8,000個の小さなAI」
8,000個という数字は、情報システム部門が作って配った数ではありません。
現場の社員が自分の業務に合わせて作る「市民開発型」の環境から生まれた数です。
用途は技術文書の確認、社内ルールの参照、資料作成、問い合わせ対応など、日常業務に密着したものが中心です。
建設業には施工要領書や基準書など、図表を含む分厚い文書が数多くあります。
PDFや図表を含む文書から必要な情報を検索・要約できる仕組みが土台にあり、
その上に各現場が自分専用の窓口を作っていくイメージです。
中小企業に置き換えるなら、見積書のたたき台を作るAI、
よくある問い合わせに答えるAI、日報を要約するAIといった具合です。
1つずつは小さくても、業務に張り付いた分だけ確実に時間を返してくれます。
業務を一番よく知っているのは、本社ではなく現場です。
以前の記事「AIに任せる仕事は、5日分の記録から見つかる」でも書いたとおり、
任せる業務の候補は現場の記録からしか出てきません。
作る主体を現場に移したことが、利用者数の伸びにつながったと読めます。

広げた仕組み——「作れる場」と「事例共有会」
リリースでは、定着の要因として4つが挙げられています。
建設業務に合わせた文書活用の仕組み、市民開発型の活用環境、社内での事例共有、継続的な導入・定着支援です。
中でも参考になるのが「生成AI事例共有会」です。
2025年9月と2026年3月の2回開催され、計3,000名の社員が視聴したとされています。
うまくいった使い方を横に広げる場を、会社として定期的に用意しているわけです。
多くの会社でAIが広がらないのは、性能ではなく「何に使えるか」が現場に伝わっていないためです。
実例を見せ合う場は、この壁を最も安く越える方法です。
道具の配布だけでなく、作り方を見せ合う場までを導入の一部として設計している点が、
多くの会社との違いだと言えます。
発表を読むときの注意点
一方で、割り引いて読むべき点もあります。
この発表はAIを提供するベンダー側のリリースであり、削減時間や金額といった効果の数字は公表されていません。
8,000個という数も「作られた数」であり、そのすべてが使われ続けているかどうかは分かりません。
似た用途のアシスタントが重複して作られている可能性もあります。
また、シングルサインオンなど大きな会社のIT基盤が前提となっている部分もあります。
それでも、時点つきの利用者数の推移という定着の実績が示されている点は、
目標値だけの発表よりも参考になります。
中小企業が学べる3つのポイント
清水建設の規模でなくても、考え方はそのまま持ち帰れます。
①道具を配って終わりにしない——使い方を試せる時間と、質問できる相手をセットで用意します。
②1個の万能AIを目指さない——業務ごとに小さな専用AIを作るほうが、精度も愛着も上がります。
③うまくいった例を見せ合う場を作る——月1回、15分の共有でも効果があります。
共有の場では、うまくいかなかった例も歓迎します。
失敗例は、次に作る人の時間を節約してくれるからです。
そして広げる前に、最低限のルールを決めておくことも忘れずに。
ルール作りは「A4一枚でつくる社内ルール5項目」で手順を解説しています。

まとめ
清水建設の発表のポイントは、利用者8,800名という規模よりも「作る人を増やした」という広げ方にあります。
AIの定着を決めるのは、ツール選びよりも環境づくりです。
現場が自分の業務に合わせて作り、それを共有できる場をどう用意するかが問われます。
まずは1つの業務で、現場の1人が「自分用のAI」を作ってみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
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