AI導入が進まない理由を聞かれたら、多くの方が「予算」と答えるのではないでしょうか。
ところが、全国1,788の自治体すべてが回答した調査では、少し違う結果が出ています。
最も多く挙がった壁は、費用ではなく人でした。
本記事では、総務省がまとめた自治体のAI・RPA導入状況を読み解き、
先行する市の実績と正直な課題、そして中小企業が読み取れる3点を解説します。
導入率は、規模で大きく分かれている
使うのは「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」です。
2024年12月31日時点の状況を、全国1,788団体から回答率100%で集めたものです。
AIを導入済みと答えたのは全体で1,154団体、率にして64.5%でした。
内訳を見ると、都道府県は47団体すべて、政令指定都市も20市すべてが導入済みです。
一方、それ以外の市区町村は1,712団体のうち996団体で、58%にとどまります。
RPAはさらに差が開きます。
都道府県96%、指定都市100%に対し、その他の市区町村は742団体で43%でした。

つまり、規模の大きい団体はほぼ入り終えていて、差がついているのは中小規模の市町村だということです。
この構図は、企業でもそのまま当てはまります。
実際、中小企業のAI導入率が大企業に届いていないことは、これまでの記事でも繰り返し出てきた数字でした。
つまずきの1位は、費用ではなく人
同じ調査で、導入にあたっての課題も聞いています。
最も多かったのは「人材が足りない」で838件。
次が「費用が高く予算を確保しにくい」で674件、3番目が「導入の効果が分からない」で562件でした。
予算の話が上位に来るのは想像どおりですが、それを上回ったのが人の問題だった点は見逃せません。
道具を買う決裁より、動かす人を用意するほうが難しい。
これは自治体に限った話ではないはずです。

実際に導入されているAIの中身も、この見立てを裏づけます。
数が多い順に、音声認識が879、文字認識が622、チャットボットが374でした。
いずれも、業務のやり方を大きく変えずに済む領域です。
会議録の書き起こし、紙の申請書の読み取り、よくある問い合わせへの一次対応。
担当者が一人でも始められるところから入っている、という実態が見えてきます。
先行する自治体の実績と、正直な課題
では、進んでいるところはどれだけ削れているのでしょうか。
総務省の自治体DX事例に載っている大阪府豊中市の例では、83の業務にRPAとAI-OCRを適用し、
年間およそ10,900時間を削減したとされています(2024年3月時点、人口約40万6千人)。
静岡県磐田市は、2026年2月26日の市議会本会議で、
令和6年度末までに2,458時間を削減したと答弁しました。
令和7年度末に2,000時間という目標を、1年前倒しで超えた計算です。
同市は全職員がパソコンで生成AIを使える環境も整えています。
住民向けのAI活用では、過去記事「市役所がAIに任せたのは“傾聴”だった」で横須賀市の例も紹介しています。
一方で、課題を率直に述べている自治体もあります。
熊本県菊池市は2025年12月4日の市議会本会議で、電子決裁やAI-OCR、
RPAを全庁的に導入してきた経過を説明したうえで、2つの課題を挙げました。
1つはRPAを構築する技術が特定の職員に偏っていること、もう1つはランニングコストが増えていることです。
削減時間という成果の裏側で、作れる人が限られ、維持費が積み上がる。
導入した組織だからこそ見えてくる問題であり、これから始める側にとってはむしろ貴重な情報です。
中小企業が読み取れる3つのこと
自治体の話ですが、示していることは民間企業とほとんど同じです。
次の3点は、規模を問わず今日から意識できます。

①成果は「時間」で数える
豊中市も磐田市も、成果を導入本数ではなく時間で語っています。
何業務に入れたかは手段の話であり、時間は経営の話です。
導入前に対象業務の所要時間を測っておけば、あとから差を示せます。
測り方は過去記事「導入効果を数字で示す測定3ステップ」で詳しく解説しています。
②作れる人を、最初から2人にする
菊池市が挙げた属人化は、RPA導入で最も起きやすい失敗です。
作った担当者が異動したり退職したりすると、誰も直せない仕組みだけが残ります。
最初の1本を作るときから、必ず2人で作業内容を共有してください。
手順書を1枚残すだけでも、引き継げる確率は大きく変わります。
③走り続ける費用を、初日に見積もる
導入費用は検討されますが、翌年以降の保守料や利用料は忘れられがちです。
ライセンス費、保守費、作り直しの工数を3年分並べてみてください。
削減できる時間を金額に換算した額と比べて、それでも上回るかを最初に確かめておく。
この一手間が、数年後に「使っていないのに払い続ける」状態を防ぎます。
まとめ
自治体のAI導入率は全体で64.5%、市区町村に限れば58%、RPAは43%。
そして最大の壁は費用ではなく人でした。
先行する市は年間1万時間規模を削る一方で、属人化と維持費という次の課題に直面しています。
裏を返せば、時間で数え、作れる人を増やし、続く費用を先に見ておけば、多くのつまずきは避けられるということです。
自治体の実績は公開されている情報です。
同じ規模の団体の数字を一度のぞいてみると、自社の見積もりの手がかりになるはずです。
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