その業務にAIを使ってよいかを見分ける3つの軸を表すイラスト

その業務にAIを使ってよいか——国の新ガイドラインが示す“高リスク”3つの見分け方

この業務にAIを使ってよいのだろうか。
そう迷ったとき、判断の物差しが社内にないと、結局その場の感覚で決めることになります。
2026年6月12日、国がその物差しを示しました。
デジタル社会推進会議幹事会が決定した「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(DS-920)です。
行政機関向けの文書ですが、中身は民間企業にもそのまま使えます。
本記事では、このガイドラインが示す高リスクの3つの見分け方を、中小企業の言葉に置き換えて解説します。

国が示した「高リスク」の3つの軸

このガイドラインは、生成AIの使い道を3つの軸で評価するよう求めています。
1つ目は業務の性質です。
出力を間違えたときに、人の権利や安全、組織の信頼に重大な影響が出るかどうかを見ます。
2つ目は利用者の範囲です。
不特定多数の人が直接触れるのか、それとも内部の担当者や限られた相手だけなのか。
3つ目は人の判断です。
使う前に人が内容を確かめる手順があるかどうかを問います。
ガイドラインは、人が確認しないまま出力を使う状態を明確に高リスクとして挙げています。

間違えたときの影響・触れる人の範囲・人が確認するかという3つのリスク軸の図

行政機関の場合、複数の軸で高リスクと判定された用途は、実施の前に有識者の会議へ報告することが求められます。
中小企業にそこまでの手続きは要りませんが、考え方は借りられます。
3つの軸のうちいくつに当てはまるかを数えるだけで、慎重に進めるべき業務が浮かび上がるからです。

使い方は難しくありません。
対象の業務について、3つの軸をそれぞれ「はい」か「いいえ」で答えるだけです。
「はい」が1つなら注意して進める、2つ以上なら手順を整えてから始める、と決めておけば迷いません。
大事なのは、判定した結果を口頭で終わらせず、一行でも書き残しておくことです。

3つの軸を、自社の業務に当てはめる

実際に社内の業務を当てはめてみます。
社内会議の議事録をAIに要約させる場合、間違えても影響は社内にとどまり、
読むのは担当者だけで、目を通してから配ります。
3つの軸すべてで低リスクなので、今日から始めて構いません。
一方、見積書の金額をAIに計算させる場合はどうでしょうか。
金額の誤りは取引に直結し、書類は社外に出ます。
この場合は、人が確認する手順を挟むことが前提になります。

議事録の要約はそのまま任せる、見積書は人が確認してからという対比図

もう少し踏み込んだ例も見ておきます。
採用の合否をAIに判定させることは、人の権利に関わるため、確認手順を足せば済むという話ではありません。
判断そのものを任せない、という線引きが必要な領域です。
ウェブサイトの自動応答は、不特定多数が触れる点で軸の2つ目に当たります。
答えられる範囲をあらかじめ絞り、判断が必要な相談は人へつなぐ作りにしておく。
この考え方は、過去記事「市役所がAIに任せたのは“傾聴”だった」で紹介した横須賀市の設計とも重なります。

いちばん動かしやすいのは3つ目の軸

3つの軸のうち、業務の性質と利用者の範囲は、自社の都合で変えられるものではありません。
見積書が社外に出る事実も、採用が人の権利に関わる事実も動かせないからです。
ところが3つ目の人の判断だけは、自分たちで設計できます。
つまり、リスクを下げる現実的な手立ては、確認をどこに置くかを決めることに尽きます。
すべてを確認するのではなく、金額が動くとき、社外に出るとき、初めての取引先のときといった条件で線を引く。
この決め方は、過去記事「生成AIの社内ルールをつくる5項目」でも同じ形で紹介しています。

あわせて決めておきたい3つの実務

ガイドラインには、運用面の要求も具体的に書かれています。
中小企業がそのまま取り入れられるものを3つ挙げます。

入れてよい情報の線を引く・指示と出力を記録する・更新されたら確かめ直すの3ステップ図

①入れてよい情報の線を引く

機密性の高い情報は、通常の生成AIサービスでは扱わないことが原則とされています。
標準の利用規約のまま使うクラウドサービスに、秘密情報を入れないという考え方です。
個人情報についても、明確な理由なく入力してはならないと明記されています。
自社に置き換えるなら、顧客の個人情報と、秘密保持契約のある資料の2つを外すところから始めれば十分です。

②指示と出力を記録に残す

ガイドラインは、入力した指示と返ってきた出力を記録し、定期的に抜き取りで点検するよう求めています。
目的は監視ではなく、想定外の使われ方に早く気づくことです。
法人向けのサービスであれば、管理画面から利用状況を確認できるものが多くあります。
まずは月に一度、数件を眺めるだけでも構いません。

③モデルが更新されたら確かめ直す

見落とされがちなのがこの点です。
生成AIは提供側の都合で中身が更新され、同じ指示でも出力が変わることがあります。
ガイドラインでも、大きな更新の際に精度が保たれているかを確認してから使うよう求めています。
業務で定型的に使っている指示文をいくつか手元に残しておき、更新の知らせが来たら試す。
これだけで、気づかないうちに品質が落ちる事態を防げます。

もう一点、ガイドラインは手作業と比べた費用対効果を定期的に評価するようにも求めています。
使い続けること自体が目的にならないための歯止めです。
効果の測り方は過去記事「導入効果を数字で示す測定3ステップ」にまとめてあります。

まとめ

AIを使ってよい業務かどうかは、感覚ではなく軸で決められます。
間違えたときの影響、触れる人の範囲、人が確認するかどうか。
国のガイドラインが示したこの3つは、規模を問わず使える物差しです。
そして自社で動かせるのは3つ目だけであり、だからこそ確認をどこに置くかの設計がすべてになります。
まずは今使っている業務を1つ選び、3つの軸を当ててみてはいかがでしょうか。

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