「AIを進めたいが、任せられる人がうちにはいない」。
中小企業の経営者から、よく聞く言葉です。
実際、2026年版の中小企業白書でも、AIを活用しない理由の2位は「推進する人材の不足」(40.0%)でした。
ただ、この「人材」を、AIに詳しい専門家のことだと考えてしまうと、話は一歩も進みません。
専門家を新しく雇える中小企業は、多くないからです。
本記事では、専任者を置けない会社を前提に、AI推進の担当者の選び方と、
1人に丸投げしないための役割分担のつくり方を解説します。
「人材が足りない」40.0%——足りないのは“専門家”ではない
中小企業白書に収録された、帝国データバンクの調査(n=3,888)を見てみます。
AIを活用しない理由の1位は、「活用する業務がイメージできていない」の63.4%。
2位が、今回の主題である「活用を推進する人材が不足している」の40.0%です。
1位の「イメージできない」の解き方は、5日分の業務記録から候補を見つける方法として以前の記事で解説しました。
今回はその続きにあたる、2位の「人がいない」の解き方です。
まず、前提をそろえます。
中小企業のAI活用で担当者に求められる仕事は、プログラムを書くことではありません。
いまのAIツールの多くは、日本語で指示を書いて試すところから始められます。
必要なのは、「どの業務を」「どんな手順で」「どこまで」任せるかを決めて、小さく試し、結果を社内に広げる人です。
つまり技術の専門家である必要はなく、自社の業務をよく知っていることのほうが、ずっと重要です。

「いちばん詳しい人」への丸投げが止まる3つの理由
よくある失敗が、「パソコンに詳しいから」という理由で若手社員に一任するやり方です。
これが止まるのには、はっきりした理由があります。
- ツールには詳しくても、対象業務の手順や例外までは知らないことが多い。
- 他部署に「やり方を変えてほしい」と頼める権限も立場もない。
- 通常業務への上乗せになり、本人が疲れて続かない。
そこで、担当者を選ぶ基準は、ツールの知識ではなく次の3つをおすすめします。
1つ目は、対象業務の手順を口で説明できること。
2つ目は、各部署に顔見知りがいて、質問や相談をしやすいこと。
3つ目は、やり方を変えることを面白がれることです。
ツールの操作はあとから覚えられますが、業務の勘所と社内の信頼関係は、すぐには身につかないからです。
なお、この基準で選ぶと、担当者は必ずしも若手ではなくなります。
経理一筋15年のベテランが、請求書処理のAI化でいちばんの適任者だった、というような例は珍しくありません。
「若い=デジタルに強い=AI担当」という思い込みを、まず外すことが出発点です。
1人に全部を負わせない——「3役」に分ける
担当者が決まっても、判断までその1人に委ねると、やはり止まります。
役割を3つに分け、別々の人が持つ形にします。
進める係——現場で試す人
先ほどの基準で選んだ担当者です。
仕事は、対象業務でAIを実際に試し、うまくいったことも、いかなかったことも記録して社内に共有することです。
「週に決まった時間だけ」と範囲を区切って任せます。
決める係——経営者本人
予算を出す、社内ルールを決める、どの業務までAIに任せるかの線を引く。
これらは経営判断そのものであり、担当者に委ねてはいけません。
社内ルールの中身は、A4一枚でつくる5項目として以前の記事にまとめています。
2週間に1回、進める係の報告を15分聞く定例を置くだけでも、担当者の孤立はかなり防げます。
聞ける先——社外の相談相手
3つ目の役は、社内に置かなくてかまいません。
ITツールの導入を支援する事業者、商工会議所や中小機構などの公的な相談窓口、すでに導入した同業の知り合い。
「詰まったときに聞ける先」を1つ確保しておくと、進める係が1人で抱え込まずに済みます。

兼任を“業務”にする——時間と評価の2点セット
兼任の担当者が続かない最大の原因は、AIの仕事が「本業の合間にやる善意の作業」のままになっていることです。
参考になる数字が、総務省の令和8年版情報通信白書にあります。
生成AIの活用に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある企業は、日本では39.9%にとどまります。
米国の62.7%、中国の71.7%と比べて、「学ぶ時間を仕事として認める」姿勢に大きな差があるのが現状です。
会社としてやることは、2つだけです。
1つ目は、時間を先に確保すること。
たとえば「毎週金曜の14時から16時はAIの時間」と予定表に入れ、その枠には他の仕事を頼まないと決めます。
2つ目は、評価に入れることです。
削減できた時間や社内に広げた件数を、査定や面談で扱う項目に加えます。
「やってもやらなくても同じ」なら、忙しい現場では必ず後回しになるからです。

まとめ
「AIを推進する人材」は、外から雇ってくるものではなく、社内の業務を知る人に役割と時間を渡してつくるものです。
選ぶ基準は、ツールの知識より業務の知識。
体制は、進める係・決める係・聞ける先の3役。
兼任を続けさせる鍵は、時間の確保と評価の2点でした。
まずは来週の朝礼で、「この業務、AIで楽にできないか試してほしい」と名指しで頼むこと。
そこから、あなたの会社の推進体制づくりは始まります。
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