「銀行の勘定系にだけは、AIを近づけられない」。
長くそう言われてきた領域から、はっきりした数字が届きました。
ソニー銀行と富士通は2026年9月14日、
稼働中の勘定系システムの開発に生成AIを本格適用したと発表しました。
成果は、開発工数の40%削減と開発期間の30%短縮でした。
さらに工程別に見ると、削減率は最大90%から40%まで大きな凸凹があります。
実はこの凸凹こそ、中小企業にも役立つ「AIの任せどころの地図」です。
本記事では、発表の中身と数字の読み方、
自社の仕事に置き換えて学べるポイントを解説します。
「勘定系」は、止まるとニュースになるシステム
勘定系とは、預金残高や振り込み、利息の計算など、
お金の動きそのものを処理する銀行の中枢システムです。
ひとたび止まれば振り込みができなくなり、全国ニュースになる存在です。
だからこそ最も慎重に扱われ、新しい技術を最初に試す場所からは一番遠いとされてきました。
今回の対象は、ソニー銀行が富士通と開発を進める
「Fujitsu Core Banking xBank」を使った勘定系です。
AWSのクラウド上で動く、マイクロサービス型と呼ばれる新しい構造を採用しています。
銀行とAIの組み合わせは、千葉銀行の営業支援の記事でも紹介しました。
営業支援が銀行の「入り口」の仕事だとすれば、勘定系は一番奥にある金庫室です。
その金庫室の開発現場に、生成AIが正式に入ったことになります。
工数40%減・期間30%短縮——1年かけた段階適用
両社は2025年9月から、勘定系開発の主要工程に生成AIを段階的に適用してきました。
対象は基本設計、詳細設計、製造・単体テスト、結合テストの4つの工程です。
AIの中核には、AWSの「Amazon Bedrock」上で動く
Anthropic社の「Claude」と「Claude Code」を使っています。
その結果、2026年7月時点で工数は全体で40%削減、
開発期間は従来比で30%短縮されたといいます。

注目したいのは、進め方です。
一気に全工程を置き換えたのではなく、約1年かけて工程ごとに順番に広げてきました。
「大事なシステムだから使わない」ではなく、「大事なシステムだから段階を踏む」。
その進め方が、そのまま数字になったと読めます。
90%と40%——工程別の凸凹が「任せどころの地図」になる
発表では、工程別の効果も公表されています。
- 基本設計: 変更の影響調査の工数を最大90%削減
- 詳細設計: 設計書作成の工数を最大40%削減
- 製造: ソースコードの99%をAIが生成
- 結合テスト: テストの実行工数を最大90%削減
大きく減ったのは、影響調査とテストの実行でした。
どちらも大量の資料やコードを調べ、同じ確認を繰り返す「量で人を消耗させる仕事」です。
一方、設計書の作成は最大40%にとどまっています。
何をどう作るかを判断して書き起こす仕事は、
AIが手伝っても人の関与が濃く残るわけです。
コードの99%を生成できても、その前後の設計とテストの枠組みは人が握っています。

中小企業が学べる3つのポイント
勘定系の開発は大企業の話ですが、この数字の読み方は会社の規模を選びません。
自社に置き換えるためのポイントを3つに整理します。

① 「何%減るか」は仕事全体ではなく工程で数える
たとえば見積書の作成は、調べる・写す・整える・確認するという工程に分解できます。
今回の事例が示すのは、削減率は工程ごとに90%から40%まで差が出るという事実です。
ツール検討の際も「この業務は何%減りますか」ではなく、
どの工程が大きく減るのかを確かめると判断を誤りにくくなります。
② 「下書きはAI、確認は人」の順番を崩さない
コードの99%を生成しても、人の設計とテストに挟まれて初めて銀行で使える品質になります。
間違えられない仕事ほど、AIの出力を人が確かめる場所を先に決めておくことが大切です。
確認の仕組みづくりの具体策は、AIの間違いを前提にした検品の記事で解説しています。
③ 大事な仕事ほど、小さく段階的に始める
両社は約1年かけて、工程ごとに適用範囲を広げてきました。
「大事な業務だからAIは無理」ではなく、「大事な業務だから工程を分けて順番に」。
この言い換えができる会社から、聖域の自動化は静かに進んでいきます。
数字を読むときの注意点
今回の数字を自社の判断に使う際は、次の点に注意してください。
- 数字は両社の発表によるもので、第三者による検証はありません。
- 工程別の削減率は「最大」付きの値で、常にこの割合で減るわけではありません。
- 対象はクラウド型の新しい勘定系で、古い環境でも同じ効果が出るとは限りません。
- 富士通はこの開発モデルを他の金融機関へ展開する計画を持つ当事者です。
それでも、稼働中の勘定系という最も慎重さが求められる現場で、
工程別の実数が示された意義は大きいといえます。
今後は要件定義を含む全工程や、他の金融機関への展開も計画されているとのことです。
まとめ
ソニー銀行と富士通は、銀行の中枢である勘定系の開発に生成AIを本格適用し、
工数40%削減・期間30%短縮という結果を公表しました。
注目すべきは合計の数字よりも、90%減る工程と40%しか減らない工程があるという凸凹です。
調べる・繰り返す仕事はAIが得意で、判断して書き起こす仕事には人が残る。
この地図は、銀行に限らずどの会社の仕事にも重ねられます。
「聖域だからAIは入れられない」という思い込みは、今回の発表で一つ崩れました。
大切なのは、聖域を聖域のまま守ることではなく、
工程を分けて任せどころを見極めることです。
まずは自社で一番「さわれない」と思っている業務を、
工程に分解するところから始めてみてください。
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