社内用語集をAIに渡すイメージ。「定例」が分からず困るAIと用語集を差し出す社員

「定例に上げて」が通じない——AIエージェントに“社内の言葉”を教える用語集のつくり方

「AIを入れてみたら、思ったより賢くなかった」。
導入したばかりの会社から、こうした感想を聞くことがあります。
原因をたどると、AIの性能ではなく「社内でしか通じない言葉」でつまずいている例が少なくありません。

人並みの文章力があっても、「定例」「N社」「1ケース」といった言い回しは、教わらなければ分かりません。
これは人間の新入社員と同じです。
本記事では、中小企業が1週間で作れる「社内用語集」を、集める・書く・渡すの3つの手順で解説します。

AIがつまずくのは、難しい業務より「社内の言葉」

生成AIやAIエージェントは、世の中に公開された膨大な文章から言葉を学んでいます。
そのため一般的な言葉づかいには強い一方で、自社の中だけで使われる言い回しは知りようがありません。

たとえば「これ、定例に上げておいて」という指示です。
社内の人なら、毎週火曜の進捗会議の議題に追加することだと分かります。
しかしAIは、「定例」がどの会議を指すのかを知りません。
取引先を「N社」と略す習慣や、「1ケース」が20袋なのか24本なのかという数え方も同じです。
1ケースのつもりが1本で発注書が作られていた、という行き違いは業務自動化では実害になります。

やっかいなのは、AIが聞き返してくれるとは限らないことです。
人間の新入社員なら「すみません、定例とは何ですか」と確認できます。
一方、多くのAIは知らない言葉に出会っても、それらしい答えを自信ありげに返してしまいます。
間違いはもっともらしい形で紛れ込むため、後から気づきにくいのです。

AIがつまずく社内の言葉の3つの類型。社内だけの略語、商品の呼び名、数え方の単位

成功している会社は「情報の整理」を先に済ませている

参考になる調査があります。
アイスマイリーとMMD研究所の「2026年企業のAI導入・活用に関する調査」(2026年8月7日発表)です。
AI導入が上手くいっている企業に、導入前に行った準備を尋ねています。
上位は「業務課題の整理」の35.3%と、「データ・社内情報の整理」の34.9%でした。

用語の整理は、この「社内情報の整理」のいちばん軽い入り口です。
フォルダと文書の整理には数日かかりますが、用語集はA4一枚、20〜30語から始められます。
文書側の整え方は、AI導入前に済ませたい社内データ整理の3ステップの記事で解説しています。

なお、この調査はAI導入全般の準備を尋ねたもので、用語整備に限った数字ではありません。
その点は割り引いたうえで、先に情報を整えた会社が上手くいっている、という傾向として参考にしてください。

1週間でつくる社内用語集——3つの手順

ここからは、実際の作り方を3つの手順で説明します。
かける時間は、1日5分×5営業日と、仕上げの1時間ほどです。

社内用語集をつくる3つの手順。通じなかった言葉を集める、意味と使用例を1行で書く、AIに渡して育てる

手順1 「通じなかった言葉」を5営業日ためる

最初から社内の言葉を全部書き出そうとすると、たいてい挫折します。
集めるのは「実際に通じなかった言葉」だけで十分です。
AIの答えがずれたときの質問文、議事録の誤変換、入社したばかりの人に聞かれた言葉を、1日5分メモします。
5営業日で20〜30語たまれば、最初の用語集としては合格です。

手順2 1語につき1行、「意味と使用例」を書く

書式は表計算ソフトに4列だけ用意します。
用語、正式名称、意味、使用例の4列です。
たとえば「定例」なら、正式名称は「営業部週次進捗会議」、意味は「毎週火曜10時の進捗会議」と書きます。
使用例には「定例に上げる=この会議の議題に追加する」のように、実際の言い回しを1つ添えます。

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コツは、1行で言い切れないものを無理に載せないことです。
1行で説明できるのが「用語」、説明に段落が必要なものは「手順」や「判断基準」です。
後者は用語集ではなく、AIへの指示書(業務の引き継ぎ書)として別に言語化します。

手順3 AIに渡して、3か月ごとに育てる

渡し方は2通りあります。
毎回の指示文(プロンプト)の冒頭に貼り付けるか、AIツールのナレッジ(参照資料)として登録するかです。
20〜30語の分量なら、どちらの方法でも問題なく動きます。
登録名は「社内用語集(正)」のように、正本だと分かる名前にしておくと確実です。

渡したら終わり、にしないための約束を2つだけ決めます。
担当者を1人決めること。
そして3か月に1回、通じなかった言葉を足し、使わなくなった言葉を消すことです。
言葉は商品や組織の変化とともに入れ替わるため、用語集も生き物として扱います。
効果の確かめ方も簡単で、以前ずれた答えが返ってきた質問をもう一度投げ、変化を見るだけです。

載せてはいけない言葉——3つの注意点

用語集は小さな文書ですが、AIに渡す以上、載せる内容には線引きが必要です。

  • 社外秘は載せない——開発中のコードネームや取引条件は、公開されても困らない言い換えに変えます。
  • 個人名は役割に言い換える——「田中さんに確認」ではなく「経理担当に確認」と書きます。
  • 正本は1つに決める——コピーが散らばると、AIが古い定義を参照してしまいます。
用語集に載せてはいけない言葉の3つの注意点。社外秘は載せない、個人名は役割に言い換える、正本は1つに決める

まとめ

AIへの引き継ぎというと、高度な設定や大がかりなデータ整備を想像しがちです。
しかし実際に効くのは、「うちの言葉を教える」という、新人を迎えるときと同じ地味な準備です。
聞き返してくれない相手だからこそ、先に教えておく価値があります。

用語集は、手順の言語化やデータの整理と比べても、いちばん小さく始められます。
まずは今日、AIや同僚に「通じなかった一言」をメモするところから始めてみてください。

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