AIのほうがWordへ来た——契約レビューAIエージェントの新設計

AIの画面へ行くのではなく、AIがWordへ来た——“いつもの場所”で完結する契約レビュー

契約書のチェックをAIに任せるサービスは、この数年でずいぶん増えました。
ところが現場では、「また新しい画面を覚えるのか」が導入の壁になりがちです。
文書はWordで開き、AIは別の画面で動かし、結果をまたWordへ写す。
この行き来が続くと、せっかくの道具はだんだん使われなくなります。

リーガルテック企業のMNTSQ(モンテスキュー)は2026年9月7日、この壁への答えを発表しました。
人がAIの画面へ行くのではなく、AIのほうがWordへ来る、という設計です。
本記事では、発表の中身と設計の考え方、中小企業がまねできる3つのポイントを解説します。

「別の画面のAI」は、なぜ使われなくなるのか

同社の「MNTSQ CLM」は、契約書の審査や案件の管理を扱うサービスです。
2025年10月からAIエージェント機能「MNTSQ AI Agent」の実装を始め、
第2弾では案件管理に組み込みました。
今回はその第3弾で、対象はいよいよ本丸の契約レビュー機能です。

従来のAIレビューでは、Wordの文書を専用ツールへ読み込ませ、
結果を人がWordへ反映し直す流れが珍しくありませんでした。
そのたびに作業は中断され、画面の切り替えで集中も途切れます。
同社が今回の特長として真っ先に挙げたのも、「作業の中断や画面の切り替えが発生しない」ことでした。
AIの賢さではなく、AIの居場所を変えたところに、この発表の面白さがあります。

画面を行き来する/いつもの画面で完結 の対比

Wordの中で「方針の合意から赤入れまで」が完結する

発表によると、契約レビューの一連の作業は次の4つの形でWord上で完結します。

  • 方針の合意——案件の背景を踏まえてAIが不足情報やレビュー方針を提案し、担当者と先にすり合わせる
  • 赤入れ——修正案を、変更履歴つきでWordの本文に自動で反映する
  • コメント——修正の理由などを、Wordのコメントとして作成・付与する
  • 連絡の下書き——事業部門とやり取りする案件管理上のコメントの下書きを作る

注目したいのは、赤入れが「変更履歴つき」である点です。
AIが黙って本文を書き換えるのではなく、人が1か所ずつ採否を判断できる形で返してきます。
ソニー銀行の勘定系開発でも確認した「下書きはAI、確認は人」の順番が、ここでも守られています。

「まず自社の基準」——AIが読む順番の設計

もう1つの柱は、AIが何を根拠に契約を直すのか、という参照順の設計です。
このAIはまず、自社のプレイブック(契約審査の基準書)を優先して参照します。
該当する項目がなければ、大手法律事務所が監修した標準のプレイブックを使う、という順番です。
一般論より先に「うちの決め方」を読む、と製品の側が決めているわけです。

会社の判断基準を言語化してAIに読ませる流れは、丸亀製麺のトリドールHDが経営判断で試みたものと同じ方向です。
加えて、条項間の矛盾、案件情報と契約内容の食い違い、表記の揺れといった不備の検出も強化されました。
条番号のずれや仮置き文言の消し忘れまで、1度の審査でまとめて見つけるとしています。
人が見落としやすい機械的な不備こそ、AIの持ち場という整理です。

まず自社の基準、つぎに標準の基準 の参照順

中小企業がまねできる3つのポイント

MNTSQ CLMの主な利用者は、法務の担当者がいる企業です。
それでも今回の設計には、法務専任のいない会社にも持ち帰れる考え方が3つあります。

①道具は「いつもの画面に来るか」で選ぶ

AIツールを比べるときは、機能の一覧だけでなく「今の仕事の画面に入ってくるか」を確かめましょう。
WordやExcelの中で動く、いつものチャットに知らせが届く、
といった形なら、覚えることが少なく定着しやすくなります。
専用画面との行き来が多い道具は、無料試用の段階で「開かなくなっていないか」を見てから決めても遅くありません。

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②「必ず直す点」をA4一枚に書き出す

プレイブックというと大がかりに聞こえますが、中身は「うちはここを必ず直す」という約束事の集まりです。
支払い期日、損害賠償の上限、解約の予告期間など、過去の契約で直してきた点をA4一枚に書き出してみてください。
この1枚は、AIに渡す自社基準にも、人へ引き継ぐ資料にもなります。

③AIの直しは「履歴が残る形」で受け取る

どのAIツールを使う場合も、修正案は変更履歴やコメントなど、あとから人が確かめられる形で受け取りましょう。
「どこを、なぜ直したか」が残っていれば、確認は短時間で済み、間違いにも気づきやすくなります。
履歴の残らない一括書き換えは、たとえ便利でも避けるのが安全です。

いつもの画面で選ぶ→直す基準を1枚に書く→直しは履歴つきで受け取る の3ステップ

注意して読む点

一方で、今回の発表を読むときは、次の点にご注意ください。

  • 発表は開発元のMNTSQによるもので、第三者による検証はまだありません
  • 時間削減など、効果を示す数字は今回の発表には含まれていません
  • 料金は非公表で、9月7日から順次リリースのため、行き渡る時期は利用環境によって異なります
  • 標準プレイブックはあくまで出発点で、自社の基準づくりの代わりにはなりません

まとめ

MNTSQの第3弾アップデートは、契約レビューのAIをWordの中へ移し、
方針の合意から赤入れまでを1つの画面で完結させるものでした。
根拠はまず自社の基準から、直しは変更履歴つきで。
この2つの決め事に、AIと働くときの作法が凝縮されています。

人がAIに合わせて画面を増やす時代から、AIが人の画面へ出向いてくる時代へ。
道具選びの目線を1つ変えるだけで、社内への定着は大きく変わります。
まずは自社の「必ず直す点」を、A4一枚に書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。

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