マイナンバーカードで本人確認し、AIには属性だけを渡す——宮城県のAI窓口のイメージ

本人確認はマイナカード、AIに渡すのは“市町村と年代”——宮城県で始まったAI窓口の設計

窓口が閉まった夜でも、住んでいる市町村や年代に合った答えが返ってくる。
そんな行政のAI窓口が、宮城県で動き始めました。
2026年9月2日、宮城県は「みやぎ県民公式アプリ」に、生成AIの案内機能「AIみやぎ県」を実証導入しました。
アプリの登録者は120万人を超え、県民の約2人に1人が持っている計算です(開発したポケットサイン社の発表)。
注目したいのは、マイナンバーカードで本人確認をしながら、AIには個人を特定できる情報を渡さないという設計です。
本記事では、この仕組みと、中小企業の顧客対応AIにも応用できる「データの渡し方」を解説します。

県民の2人に1人が使うアプリに、AI窓口が入った

「みやぎ県民公式アプリ」は、マイナンバーカードと連携した宮城県の公式アプリです。
防災情報や健康づくり、県内の店舗で使える「みやぎポイント(みやポ)」などの機能がまとまっています。
今回の「AIみやぎ県」は、このアプリに追加された生成AIのチャット窓口です。
県の公式ホームページなどの公開情報をもとに、住民からの質問に24時間自動で答えます。
まずは「県民公式アプリの使い方」と「観光情報」の2分野から始まり、
2027年1月以降に全県政情報へ広げる計画です。
音声入力にも対応し、利用者はグッド・バッドボタンで回答を評価できます。

カードで本人確認、市町村と年代だけに変換、答えを個別に最適化 の仕組み図

本人確認はマイナンバーカード、AIに渡すのは属性だけ

最大の特徴は、マイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)による本人確認と連動して、回答が変わる点です。
同じ質問でも、住んでいる市町村や年代によって、当てはまる制度や窓口は違います。
「AIみやぎ県」は、本人確認で得た情報のうち「市町村や年代」といった属性データだけを、
個人を特定できない形に変換してAIに渡します。
マイナンバー(個人番号)そのものは一切取得・利用しない、と同社は明記しています。
同社はこれを、本人確認と連動して回答を最適化する住民向け生成AIサービスとして「全国初」と説明しています。
知事も9月2日の記者会見で、カード連携による回答の個別化は全国初だと述べました。
このほか、対話内容を記憶して次回以降の案内に生かすメモリ機能や、
不適切な質問を入り口で遮断するガード機能、職員が質問の傾向を分析できる管理画面も備えています。
回答には参照元のWebページが併せて表示され、利用者が根拠を確かめられるようになっています。

みんなに同じ答えと、一人ひとりに合う答えの対比図

住民向けAIは「みんなに同じ答え」から「個別の答え」へ

自治体の住民向けAIは、すでに珍しいものではありません。
総務省の調査(令和6年12月31日時点)では、AIを導入済みの自治体は64.5%にのぼり、
チャットボットも374団体で使われています。
調査の詳しい中身はこちらの記事で解説しています。
また、神奈川県横須賀市のように、AIに“傾聴”という一次対応を任せる「AIちゃん」の事例も紹介してきました。
ただ、これまでの住民向けAIの多くは、誰が聞いても同じ答えを返す「一斉配布型」でした。
「AIみやぎ県」が新しいのは、本人確認と連動して、答えを一人ひとりの状況に寄せたことです。
一方で、答えの個別化は、個人情報の扱いと常に隣り合わせです。
「個人を特定できない属性に変換してから渡す」という一段の工夫が、便利さと安心の両立を支えています。

中小企業が学べる「データの渡し方」3つの設計

顧客対応にAIを使うとき、中小企業も同じ問題に突き当たります。
顧客データを渡すほど答えは的確になりますが、渡しすぎれば漏えいや誤案内のリスクが膨らみます。
「AIみやぎ県」の設計からは、次の3つが応用できます。

1. 渡す情報を「属性」に丸める

氏名や住所、連絡先をそのままAIに渡すのではなく、
「会員ランク」「地域」「購入した商品の分類」など、個人を特定できない粒度に変換してから渡します。
答えを個別化するのに必要なのは、多くの場合この粒度で十分です。

2. 回答に根拠を付けさせる

「AIみやぎ県」は、回答と一緒に参照元のページを表示します。
自社の顧客対応AIでも、社内マニュアルの該当箇所など根拠を必ず添えさせると、
誤った案内がお客様に届く前に人が検証できます。

3. 答えない範囲を先に決める

不適切な質問を入り口で遮断するガード機能に相当する考え方です。
値引きや契約変更など、AIに答えさせない領域を先に決めることが個別対応AIの安全装置になります。

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渡す情報を属性に丸める、回答に根拠を付けさせる、答えない範囲を先に決める の3つの設計図

注意して読む点

この事例を読むときは、次の3点を割り引いて考える必要があります。

  • 実証は2026年9月2日に始まったばかりで、利用件数や満足度といった効果の数字はまだありません。
  • 「全国初」は開発元ポケットサイン社の調べ(2026年8月31日時点)で、登録者120万人超も同社の発表です。
  • 現時点で答えられるのは2分野に限られ、全県政情報への拡大と本格提供は2027年1月以降の計画です。

まとめ

宮城県で始まった「AIみやぎ県」を紹介しました。
マイナンバーカードによる本人確認と生成AIを連動させながら、
AIに渡すのは個人を特定できない属性だけ、という設計が核心です。
個別対応の的確さと、個人情報を守ることは、渡し方の工夫しだいで両立できます。
中小企業の顧客対応AIでも、この考え方は今日から取り込めます。
渡す情報を属性に丸める・回答に根拠を付けさせる・答えない範囲を先に決める、の3つです。
AIに何をさせるかと同じくらい、AIに何を渡すか。
導入の成否を分ける問いとして、覚えておきたい事例です。

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