AIの導入を検討している会社に「何が心配ですか」と尋ねると、
多くの場合「人がいない」「スキルがない」という答えが返ってきます。
実際、国内1,107社を対象にした調査でも、導入前の課題の第1位は「人材やスキルの不足」で47.6%でした。
興味深いのは、すでにAIを使っている企業に同じ質問をしたときの数字です。
同じ「人材やスキルの不足」は31.1%まで下がります。
ところが、ほとんど下がらない課題もありました。
セキュリティ対策への懸念は35.1%から32.3%へ、わずか2.8ポイントしか動いていません。
この差は、中小企業が準備の順番を決めるうえで大きな手がかりになります。
1,107社のうち、AIを実践しているのは36%
この数字の出どころは「企業IT利活用動向調査2026」です。
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が、株式会社アイ・ティ・アールの協力を得てまとめました。
調査は2026年1月16日から20日にかけて行われました。
対象は従業員50名以上の国内企業で、情報システム・経営企画・DX推進などに携わる係長相当職以上の担当者です。
1社1回答で1,107件の有効回答を得ています。
集計結果と分析レポートは2026年4月16日に公表されました。
AIの活用状況を見ると、「新規のビジネスモデルや製品開発に活用している」が6.1%、
「社内業務全体で積極的に活用している」が16.1%、「特定の業務領域で活用している」が13.8%でした。
この3つを合わせた36.0%が、実際にAIを業務で使っている企業です。
残りは「試行的に導入している」が22.4%、「検討中」が19.5%、「今後検討予定」が18.2%と続きます。
3社に1社強が実践段階に入り、5社に1社が試している——それが2026年初頭の日本企業の姿でした。

導入前の課題と、導入後の課題を並べてみる
この調査の面白いところは、AIを実践している399社に対して、
導入前に感じていた課題と導入後に感じている課題を分けて聞いている点です。
導入前の課題でいちばん多かったのは「人材やスキルの不足」47.6%です。
次いで「教育やリテラシーの不足」44.6%、「活用目的や効果指標が不明確」43.1%と続きます。
「データの不足・分散・品質」は38.8%、「セキュリティ対策への懸念」は35.1%でした。
導入後になると、この並びが崩れます。
最も大きく下がったのは「活用目的や効果指標が不明確」で、43.1%から20.1%へと半分以下になりました。
「人材やスキルの不足」も47.6%から31.1%へ、16.5ポイント下がっています。
使い始めれば目的がはっきりし、人も育つ——という当たり前のことが、数字にもはっきり出ています。
減らなかったのは、AIの外側にある課題
一方、ほとんど動かなかった項目があります。
「セキュリティ対策への懸念」は35.1%から32.3%で、ほぼ横ばいです。
「データがデジタル化されていない」は導入後も31.1%が挙げ、
「プライバシーへの懸念」は27.1%、「信頼性や精度への不安」は22.8%が残りました。
これらに共通するのは、AIそのものの使い方ではなく、AIに渡す情報の側の問題だという点です。
紙のまま眠っている書類は、AIを導入したからといって自動的にデータに変わるわけではありません。
どの情報を社外のサービスに渡してよいかという線引きも、ツールを増やせば解決する話ではありません。
つまり、使いながら解ける課題と、使う前に決めておかないと最後まで残る課題があるということです。

効果そのものは、どの業務でも出ている
念のために書いておくと、効果が出ないから広がらない、という話ではありません。
AIを活用している企業に業務領域ごとの手応えを聞くと、
10の領域すべてで「期待以上」と「期待通り」の合計が6割を超えました。
「期待以上の効果が出ている」が最も高かったのは顧客対応・サポート業務で29.1%、
次いで経営企画・意思決定支援が27.8%、製品開発・研究開発が26.3%です。
経理・会計も24.8%、営業・マーケティングも22.3%と、
地味に見える業務でも4社に1社近くが期待を上回ったと答えています。
効果は出ています。
それでも実践企業が36.0%にとどまっているのは、
効果以前のところで足踏みしている会社が多いからだと読むほうが自然でしょう。
従業員300人未満で、差がはっきり出る
規模別に見ると、この足踏みは小さな会社ほど強く出ています。
「社内業務全体で積極的に活用している」と答えた割合は、従業員5,000人以上で20.2%、
1,000〜4,999人で18.6%、300〜999人で15.7%、299人以下では10.9%でした。
「新規のビジネスモデルや製品開発に活用している」はさらに開きが大きく、
5,000人以上の11.1%に対して299人以下は2.5%です。
ここで効いてくるのが、先ほどの「減らない課題」です。
大企業には情報システム部門があり、文書の電子化も権限の管理も、AI以前から手がついています。
中小企業ではその土台づくりから始めることになるため、同じ「AIを導入する」でも作業量がまるで違います。
先に片づけておくと、あとが楽になる3つのこと
では何から手をつけるか。
調査で「導入後も残った」項目を裏返すと、着手すべき順番が見えてきます。
1つ目は、AIに渡す情報を紙から出すことです。
全社の書類を一度に電子化しようとすると必ず止まるので、対象を1つの業務に絞り、
その業務で使う書類だけを検索できるPDFにするところから始めます。
文書の整え方は、AIの賢さは“フォルダの中身”で決まるで3つのステップにまとめています。
2つ目は、入れてよい情報と入れてはいけない情報の線を引くことです。
調査ではガバナンスの強化が必要な領域として「人間による最終判断と説明責任」が35.3%で最も多く、
次いで「AI固有のリスク管理」が32.8%、「経営方針・責任体制・倫理原則の明確化」が29.3%と続きました。
難しい規程は要りません。
A4一枚のルールでも十分に機能します。
書式は“個人任せ”が64.9%の中小企業に、生成AIの社内ルールをつくる5項目に載せています。
3つ目は、部門任せにしないことです。
同じ調査で、AIのガバナンスを「部門ごとに独立したガイドラインで運用している」が15.3%、
「部門に一任し全社的な統制はない」が8.8%でした。
合わせて4社に1社弱が、全社で足並みをそろえられていない状態です。
最初は1つの部署で試すとしても、使ってよいツールと相談先だけは全社で1つに決めます。
あとで広げるときの手戻りが減ります。

まとめ——買う前にできることが、まだ残っている
この調査が示しているのは、AI導入の難しさが「AIの難しさ」ではないということです。
人材もスキルも、使い始めれば少しずつ足りるようになっていきます。
最後まで残るのは、紙のまま置かれた情報と、決めていないルールのほうです。
どちらもAIを買う前に手をつけられるもので、しかも費用はほとんどかかりません。
最初の一歩を「どのツールを選ぶか」ではなく「何を渡せる状態にしておくか」に置き換えてみてください。
導入後の景色は、それだけで変わります。
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「どの業務からAIに任せるか」
の棚卸しから、一緒に考えます。
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