悩みを抱えたとき、市役所の相談窓口が開いているのは平日の日中だけ——。
そんな行政相談の常識が、少しずつ変わり始めています。
神奈川県横須賀市は2026年7月31日、新しいチャット相談サービスの提供を始めました。
AIが24時間365日、市民の話を聴く「よこすかAIフレンド AI(あい)ちゃん」です。
運営を担うのは、AIと専門職相談員を組み合わせた相談支援を手がけるつながりAI株式会社です。
本記事では、この取り組みの仕組みと、中小企業の顧客対応にも応用できるポイントを解説します。
LINEで24時間、匿名で話せる「AIちゃん」とは
「AI(あい)ちゃん」は、無料通話アプリLINEから利用できる傾聴型のAIチャット相談サービスです。
匿名・無料で、24時間365日いつでも相談できます。
対象は、孤独・孤立やこころの不安、生活上の悩み、福祉・子育てに関する相談です。
相談内容に応じて、適切な支援窓口を案内する機能も備えています。
日本語のほか、英語にも対応しています。
運営するつながりAI株式会社は、2025年2月に設立されたスタートアップです。
市は2026年7月21日に公募型プロポーザルでの選定を発表し、同月31日にサービスを開始しました。
委託期間は、2027年3月31日までとされています。
特徴は、単なる自動応答のチャットボットではなく「傾聴」に軸足を置いている点です。
正解を即答するのではなく、まず相談者の話を受け止めることを重視した設計です。
仕組みの核心は「AIが受け止め、人が引き継ぐ」二段構え
このサービスの核心は、AIと専門職相談員を組み合わせた「ハイブリッド型」の設計にあります。
一次対応はAIが担い、深夜や休日でも相談者の話に耳を傾けます。
そして自殺リスクや自傷他害のおそれといった高リスクの相談を検知すると、専門職相談員が確認・対応します。
必要に応じて、市の福祉部門や関係機関にも連携します。

同社はこの仕組みを、「いつでも相談できる」と「ひとりにしない」の両立と説明しています。
AIの即応性と人の判断力を、それぞれ得意な場面に割り当てた形です。
「生成AI開国の地」横須賀市が傾聴AIに踏み切った背景
横須賀市は2023年4月、全国の自治体で初めてChatGPTを全庁導入したことで知られています。
以来「生成AI開国の地」を掲げ、行政のAI活用をリードしてきました。
今回の傾聴AIは、その市が市民サービスの最前線にAIを立たせた新たな一歩といえます。
背景には、従来の相談窓口が抱えてきた2つの課題があります。
1つは時間の制約です。
窓口の多くは平日の日中しか開いておらず、夜間や休日の不安には応えられませんでした。
もう1つは心理的なハードルです。
「窓口に行くほどではない」と感じて、誰にも相談できないまま抱え込む人が少なくありません。
孤独や孤立は、一部の人だけの問題ではありません。
内閣府は2024年12月、「人々のつながりに関する基礎調査」を実施しました。
孤独感が「しばしばある・常にある」人は4.3%、「時々ある」「たまにある」まで含めると約4割にのぼります。
誰でも気軽に話せる窓口づくりは、多くの自治体に共通するテーマといえるでしょう。

中小企業が学べる3つのポイント
この事例は自治体の取り組みですが、その設計思想は中小企業の顧客対応にもそのまま応用できます。
「AIに任せると冷たい印象にならないか」と心配する経営者の方は少なくありません。
しかし今回の事例は、設計しだいでAIがむしろ「話しやすさ」を生むことを示しています。
①AIに任せるのは「一次対応」と割り切る
夜間や休日の問い合わせをAIが受け止め、翌営業日に人が引き継ぐだけでも、機会損失は大きく減ります。
住宅会社が24時間の問い合わせ対応をAIエージェントに任せた事例のように、まず入り口をAIに開く発想です。
すべてをAIで完結させる必要はありません。
完璧な回答よりも「すぐに受け止めてもらえた」という体験が、信頼につながります。
②人へつなぐ「基準」を先に決めておく
横須賀市の仕組みでは、高リスクの検知という明確な基準で人が前に出ます。
何をAIに任せ、どこからは人が対応するのか。
この線引きを先に決めておくことが、安心してAIに任せるための条件です。
判断基準の作り方は、AIエージェントの権限設計と承認フローの解説記事もあわせてご覧ください。
③期間を区切って小さく始める
今回の委託期間は、2027年3月31日までと区切られています。
効果を確かめながら続けるかどうかを判断する、スモールスタートの形です。
中小企業でも、まずは1つの業務・1つの窓口に絞り、3カ月〜半年の試用期間を決めて試すのが現実的です。
期間を区切っておけば、継続・撤退・乗り換えの判断もしやすくなります。

まとめ
横須賀市の「AI(あい)ちゃん」は、AIが24時間365日の傾聴を担う相談サービスです。
高リスクの相談を検知したときは、専門職相談員が引き継ぐ二段構えになっています。
ポイントは、AIと人のどちらが優れているかではなく、両者の得意分野をどう組み合わせるかという設計にあります。
一次対応はAIに、重要な判断は人に。
この役割分担は、業種や規模を問わず、これからのAI活用の基本形になっていくはずです。
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