銀行のサイトにログインして、残高を見て、Excelに写す。
こうした時間が月に何時間あるか、答えられる会社はほとんどありません。
名前のない作業は数えられず、数えられない作業は、削減の議題に上がらないからです。
一方で世界では、この時間そのものを削りにいく動きが始まっています。
米Amazonは2026年9月23日、出品者向けの管理画面を外部のAIに開放すると発表しました。
掲げた狙いは「出品者が管理画面にログインしなくて済むようにすること」でした。
本記事では、この時間を紙1枚と3日間で数える「転記の棚卸し」のやり方と、数えたあとの削り方を解説します。
「名前のない作業」は、会議の議題に上がらない
多くの会社の業務一覧には、「請求書処理」や「受注管理」といった名前が並んでいます。
ところが「販売管理の画面を開いて数字を確かめ、会計ソフトに打ち直す」という作業は、どこにも載っていません。
業務ではなく「業務のすきま」として扱われ、だれの仕事としても数えられていないのです。
1回あたりは、ほんの数分の作業です。
しかし毎日くり返され、しかも複数の人が同じことをしています。
この小ささにだまされてはいけないと教えてくれるのが、以前取り上げた東京の学校法人の事例です。
同校では、同じ数字をExcel・ネットバンキング・会計システムの3か所へ手で打ち直していました。
この転記をなくした結果、戻ってきた時間は年間約600時間、1日8時間換算で75営業日分でした。
敵は、大きなひとつの仕事ではありません。
名前のない小さな往復が、無数に積み重なったものです。
数えるのは「ログイン・見る・写す」の3動作だけ
棚卸しというと、業務を全部書き出す大がかりな作業を想像するかもしれません。
業務全体の洗い出しは以前の記事で解説しましたが、今回はもっと軽い方法です。
数える対象を、次の3つの動作だけに絞ります。
- ログイン——システムやサイトに入るためだけの操作(パスワード入力や二段階認証の待ち時間を含みます)
- 見る——数字や状況を確かめるためだけの閲覧(残高の確認、在庫の確認、注文が入っていないかのチェック)
- 写す——ある画面の値を、別のシステムや表へ手で入れ直す作業(転記や、コピーして貼り付け)
この3つに絞る理由は、はっきりしています。
どれも判断を含まないため、道具立てさえ整えば、人がやらなくてよい作業だからです。
写した数字をどう読むか、どこに手を打つかという判断は、これまでどおり人の仕事として残します。

3日間でできる、数え方の実際
紙1枚に「正の字」で数える
用意するのは、紙1枚とペンだけです。
縦に行き先を書き、横に「ログイン・見る・写す」の3列を作ります。
行き先とは、銀行サイト、販売管理、会計ソフト、ECの管理画面といった、日々出入りする場所のことです。
該当する動作をするたびに、正の字を1画ずつ書き足していきます。
記録するのは3日間、人数は2〜3人で十分です。
全社でやろうとすると準備が重くなり、始める前に止まってしまいます。
時間は「代表の1回」だけ測る
毎回ストップウォッチで測る必要はありません。
それぞれの作業について代表的な1回だけ時間を測り、あとは回数に掛け算します。
たとえば「販売管理の数字を会計ソフトへ写す」が1回5分で、1日に6回あったとします。
5分×6回×20営業日で月に600分、つまり10時間です。
1回の小ささからは想像できない数字が、掛け算をすると姿を現します。

月の時間に直して、大きい順に並べる
3日分の正の字を月に換算し、行き先ごとに大きい順に並べ替えます。
たいていの場合、上位の2〜3行だけで全体の大半を占めているはずです。
削減の検討は、この上位から始めれば十分です。
数えたあとの「削り方」は4つある
数えて終わりでは、時間は戻ってきません。
上位に並んだ作業には、次の4つの削り方を上から順に検討してください。
- ツールの標準機能でつなぐ——ソフト同士に連携機能やCSV取込がないかをまず調べます(最も安く確実です)
- RPAに任せる——画面や形式が毎回同じ定型の転記は、決まった手順をくり返すRPAの得意分野です
- AIエージェントに任せる——書類の様式が毎回違うなど、形の揺れを読む必要がある転記に向いています
- やめる——だれも見ていない報告のための閲覧や転記は、削るのではなく廃止します
この順番が大切です。
いきなりAIの導入から入ると、標準機能なら数分で済んだ連携に、何倍もの費用をかけかねません。
そして、どの削り方を選んでも、写したあとの数字を確かめる「人の確認」は残してください。
自動化の目的は人を外すことではなく、判断のいらない往復から人を解放することだからです。

「つなぐ」選択肢は、これからも増え続ける
冒頭のAmazonの仕組みは、接続の所要時間が約60秒で、プログラミングの知識も不要とされています。
日本でも、会計ソフトや業務システムがAIとの接続口を公開する動きが続いています。
今日数えた「ログイン・見る・写す」の時間は、来年にはもっと安く削れるようになっている可能性が高いのです。
そのとき、すぐ動けるのは数えておいた会社だけです。
新しい接続口が出てきた瞬間に、「うちはこれで月10時間戻る」と即座に判断できるからです。
まとめ
「ログインして、見て、写す」は、名前がないために放置されてきた時間です。
紙1枚と3日間で名前と数字がつけば、堂々と削減の議題に上げられます。
数えるのは3動作だけ、時間は代表の1回だけ、削り方は4つを上から順に。
まずは明日の朝、机の上に紙を1枚置くことから始めてみてください。
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