取引先から請求書が届く。
その数字をExcelの管理表に打ち、ネットバンキングに打ち、会計システムにもう一度打つ。
同じ数字を3回入力する——そんな経理の風景は、今も多くの職場に残っています。
1909年創立の学校法人中央工学校は、この「三重入力」をやめました。
経理業務の時間は、年間で約600時間減ったといいます。
本記事では2026年9月14日に発表されたこの事例と、中小企業が学べるポイントを解説します。
創立117年の学校で、経理はどう回っていたのか
中央工学校は、東京都北区にある専修学校の運営法人です。
創立は1909年、専任職員が約150名の、歴史ある教育機関です。
発表によると、財務課は年間約4,000件の請求書処理と経費精算を、紙中心で処理していました。
負担の核心は、転記でした。
届いた証憑の数字を、職員がExcel・ネットバンキング・会計システムの3か所へ手で入力していたのです。
入力のたびに転記ミスがないかの確認も必要で、大きな負担になっていたといいます。
経費精算にも、紙の手順が残っていました。
数百円の精算でも上長の押印を受け、現金で受け取る必要があったといいます。
立て替えた本人にも経理にも、金額に見合わない手間がかかる状態でした。
教育活動の妨げになっていた面もあったと、発表では説明されています。
転記の廃止で、年間約600時間を取り戻した

導入されたのは「TOKIUMインボイス」と「TOKIUM経費精算」の2つです。
紙の請求書は大幅に減り、3か所への転記作業は廃止されました。
経費精算はオンラインで完結するようになり、現金の受け渡しもなくなっています。
効果として発表されたのが、年間約600時間の削減です。
1日8時間で換算すれば、75営業日分に相当します。
年間約4,000件で単純に割れば、1件あたり約9分を取り戻した計算です。
小口現金の管理や支払い漏れといった懸念が軽減された、という担当者の声も紹介されています。
注目したいのは、削減した時間の使い道です。
同校は「蓄積データを分析し、経営に提言できる財務課」を目指すとしています。
時間を空けること自体が目的ではなく、空いた時間で何をするかまで描かれている点は、見習いたいところです。
「経理AIエージェント」の中身は、AIと人の分業だった

提供元の株式会社TOKIUMは、自社サービスを「経理AIエージェント」と位置づけています。
ただし、その中身はAIの全自動処理ではありません。
AIが読み取った結果を、8,000名以上のオペレーターが一次チェックして補正する分業型です。
データ化の精度は、項目単位で99%以上とされています。
経理は、間違いがそのまま支払いに直結する業務です。
だからこそ「AIの後ろに人の確認がある」設計は、理にかなっています。
AIに任せる業務で人の確認をどこに置くかは、人の確認の置き場所を決める記事で解説しています。
全自動にこだわらないことが、かえって導入の近道になる場合があります。
同社サイトによると、累計の導入企業は3,000社を超えています(2026年5月末時点)。
連携できる会計システムは36種類以上で、既存システムの置き換えは不要とされています。
注意して読む点
今回の数字を読むときは、次の3点に注意が必要です。
- 約600時間の削減は提供元の発表内の数字で、第三者による検証はありません。
- 600時間は請求書処理と経費精算の合計で、それぞれの内訳は公表されていません。
- 精度99%以上や3,000社超は同社サイトの数字で、時点や条件(項目単位など)が付いています。
中小企業が学べる3つのポイント

ポイント1 同じ数字を何回打っているか数える
最初の一歩は、転記の棚卸しです。
請求書・注文書・勤怠など、1つの数字が社内で何回入力されているかを数えてみてください。
2回以上打っているなら、その業務は自動化の有力な候補です。
様式がバラバラな書類の転記は、AIが得意とする領域に変わってきています。
その具体例は、建設業の見積転記の記事で紹介しました。
ポイント2 「全自動」にこだわらず、人の確認つきを選ぶ
AIエージェントと聞くと、無人の全自動を想像しがちです。
しかし間違えられない業務では、人の一次チェックが組み込まれたサービスも有力な選択肢です。
自社で確認要員を用意しなくても、サービス側に人の目が含まれている形もあります。
「どこまで自動か」「人はどこで確認するか」を、選定時に必ず確かめてください。
ポイント3 空いた時間の使い道を先に決める
600時間を削減しても、その時間が雑務で埋まれば効果は見えません。
「空いた時間で何をするか」を、導入前に言葉にしておきましょう。
中央工学校の「経営に提言できる財務課」のように、行き先があると投資判断もぶれません。
まとめ
中央工学校の事例のポイントは、3つありました。
同じ数字を3回打つ三重入力が、年間約600時間の正体だったこと。
「経理AIエージェント」の中身が、AIと人の一次チェックの分業だったこと。
そして、空いた時間の使い道まで描かれていたことです。
経理の自動化は、特別な大企業だけのものではなくなりました。
創立117年の学校法人が示したように、紙とハンコの職場こそ伸びしろは大きいはずです。
まずは自社の「同じ数字を打つ回数」を、1つ数えるところから始めてみてください。
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